最近のオフィスには喫煙ルームがありますが、そこには必ずと言っていいほど自動販売機が設置してあります。
わたしの会社での朝の始まりは、喫煙ルームで缶コーヒーを飲みながら一服することです。
顔ぶれはいつも同じです。そこには、昨日入った新人から定年まじかの重役まで、色々な人が出入りします。
普段は直接関わることがない、重役と隣り合わせで一服することもしばしばです。
ですから、そこにはオフィスにはない一種独特のコミュニティがあります。
例えば、わたしの直属の上司はタバコを吸わないので、喫煙ルームには出入りしませんが、その上の課長は愛煙家なので、毎朝私と顔を合わせて、自販機の缶コーヒーをのみながら一服する間がらです。
たまには缶コーヒーをご馳走になったり、私もお返しをします。
ですから、会社の上層部しかしらない情報を聴いたりもします。
そんな内容を直属の上司よりも先に入手できるので、何かと好都合なことが多いんです。

ある日のこと、課長から、会社の業績が悪くなり、希望退職をつのることになりそうだと教えてもらいました。
その件は、以前から噂になっていたので、いよいよきたかくらいにしか思いませんでした。
問題はそこからです。課長が言うには、希望退職を募る前に、部署移動の話がきたら断ったほうが良いと言うんです。
どうやら、いわゆる追い出し部屋になるとのことでした。
しかし、後々で問題になると面倒なので、強制はせずにあくまで任意での募集にするから、断っても差し障りはないとのことでした。その数週間後に、直属の上司から移動の打診がありました。待遇は良くてかなり好条件でしたが、課長のいった通りに断りました。

その1年後に、その部署は子会社に出向扱いになりました。
もしあの時に、上司の言う通りに部署を移動していたら、私は今頃、家族と離れて単身赴任か、ハローワークに通っていたことでしょう。缶コーヒーを飲んで一服する喫煙所に感謝です。(男性・40代・会社員)